◆経緯
・2021年7月初旬
関東にある集合住宅の管理会社からご相談。
管理しているマンションの一室で、文鳥を推定100羽ほど放し飼いにしている方がおり、臭いや害虫の被害でトラブルになっているとのこと。こうした状況が3年も続いており、今回裁判にまで発展し飼い主様は強制退去を命じられたそうです。
飼い主様は高齢の方で、ご自身で里親を探すのは難しそうとのことで、鳥たちをどうにかできないかといご相談でした。そして、この時点ではまだ執行日は決まってはいませんでしたが、少なくとも数ヶ月後には退去しなくてはならないそうで、あまり時間は残されていないようでした。
まずは現在の状況を知るために、現場を視察したいと申し出ました。
しかし、管理会社も最後に飼い主様の部屋に入れたのは3年前とのことで、それ以降は門前払いされてしまい、部屋に入れてもらうことは難しそうでした。
現在どのような状況なのかが気になるところではありましたが、飼い主様が拒絶している以上、TSUBASAができることはこの時点ではありませんでした。
・9月29日
強制退去にあたり催告を実施するとのことで、私たちも同行させていただくことになりました。
裁判所の方々が立ち入ることになるため、その際に飼い主様と直接会って話すことができないかと考えたためです。
まずは裁判所の職員らの立ち入りの後に、飼い主様にお会いすることができました。
飼い主様は高齢で一人暮らしの方でした。
最初は、管理会社からの前情報から、私たちの介入を拒絶されることも覚悟していましたが、意外にも視察の許可をあっさりと受け入れてくれました。
実際飼い主様にお会いしてみると私たちが抱いていた印象とは随分と違い、物腰も穏やかで鳥が好きな普通の愛鳥家、という印象でした。
同時に、今回の騒動については、このような状況になってしまい、申し訳なさや、恥ずかしいといった気持ちを感じとれました。
◆現場の様子
部屋は6畳ほどのスペースで、文鳥たちが放し飼いにされていました。
部屋全体から強烈な悪臭が立ち込めており、糞便も積み重なって掃除は全然されていないようでした。
餌と水は置いてあるものの、継ぎ足しているようで異臭を放っており、そこに夥しいほどのハエとゴキブリが群がっていました。
部屋の明かりは中央の電球のみで、窓やカーテンは閉め切っており、換気もされておりません。
気になる文鳥はというと、ほとんどは元気で部屋中を飛び回っていました。
ただし注意深く見ると禿げていて目をつぶっている子や、床や家具の隙間でじっとしている子など、明らかに具合が悪そうな子も少なからずいました。
部屋中に荷物が山積みとなっており、万が一崩れでもしたら隙間にいる子が埋もれてしまう恐れがあるため、動く際は慎重にならざるを得ませんでした。
鳥はもちろんのこと、人が生活できる環境とは思えませんでした。
飼い主様にお話を伺ったところ、20年ほど前から飼育しており、ここまで増やしてしまったとのことでした。飼い主様も高齢で、この羽数というのもあり、個人で里親を探すことは難しいとのこと。
ただこの時点で初めて知ったのですが、この件について管理会社は、管轄の愛護センターにも相談していたようでした。実際、飼い主様の代わりに里親掲示板に掲載するなど、里親探しのお手伝いをされていたようでした。
そこで現場の視察を終えた後、動物愛護センターへ赴き、話を伺うことにしました。
お話を伺ったところ、担当者の方は数ヶ月前から毎週1回は飼い主様と会ってお話しされていたとのことでした。最初は飼い主様も頑なな様子で門前払いもされていたのですが、次第に心を開いてくれるようになり、部屋にも入れるようになったとのことです。また、飼い主様は当初、一部の鳥を残したいというご希望があったようですが、全ての鳥を手放すべきではと説得もしてくださいました。
飼い主様ときちんと話し合うことができたのは、この愛護センターの方の献身的な対応のおかげでした。
・10月14日
2回目の現場訪問。
この時には強制退去の執行日が10月末に決定しており、執行日当日は消毒してから荷物を運び出すという流れであったため、執行日より前にレスキューを行う必要がありました。
この日は愛護センターの方にも同席いただき、飼い主様とも相談した結果、10月21日にレスキューを行うことを決定しました。
・10月21日、26日:レスキュー実施
現場は狭い室内であったことと、効率よく動く必要がありましたので、道具などの用意はもちろんのこと、段取りなどの事前の準備も念入りに行い、当日は計4名のスタッフで対応しました。
飛び回る鳥たちの捕獲はもちろんのこと、物陰や隙間にも隠れていないか捜索しました。ただ動けば良いというのではなく、荷物の山を崩して文鳥が埋もれてしまうことがないよう、慎重に動く必要がありました。
こうした捜索作業の末、21日では約1時間の作業で97羽の文鳥を捕獲しました。
まだ家具の隙間に隠れている子が後日出てくる可能性があったため、飼い主様や愛護センターの方に様子を見てもらうことをお願いし、この日は施設へ戻りました。
数日後に現場から隠れていた文鳥が6羽見つかったとの報告があり、26日に引き取りました。
これにより、21日に引き取った子達と合わせて、合計103羽の文鳥をレスキューした結果となりました。
◆レスキュー後の健康状態や治療等
施設に到着後、個体識別のために足輪の装着と、獣医による健康チェックを行いました。
糞便による総排泄孔周囲の羽の汚れが目立つ子が多く、胸部や翼までが汚れている子もいました。
未消化便を排泄している子も多く、体調が悪化しプラスチックケースで看護が必要となった子もいます。
その他、白内障や眼科疾患、腹壁ヘルニア、腹部腫瘤、脱羽、趾の欠損等が認められました。
遺伝子検査では鳥クラミジア症とBFDの検査実施したところ、全て陰性でした。
糞便検査は、ボランティア獣医師にもお手伝い頂き実施しました。
糞便からは、マクロラブダス、コクシジウム、コクロソーマ、カンジダ、線虫卵等が検出されました。
全羽一斉に投薬となり、さらに各々効く薬も異なる為、今まで作成した事が無い程の薬の量になりました。
残念ながらレスキュー後間も無く体調を崩し、すぐに亡くなってしまった子もいました。
(21年12月までに計8羽の文鳥が亡くなりました)
亡くなった後の解剖や検査の結果、死因は腸内環境の悪化による慢性衰弱が主な原因でした。
これは元々の飼育環境で弱っていた、栄養状態が悪かったというのと同時に、レスキューによる環境の変化というのも大きかったようでした。
◆文鳥里親会開催
羽数が多いことに加え、いつ急変してもおかしくない健康状態であることから、文鳥たちの里親会を開催することになりました。
文鳥里親会の詳細はこちら
事前に今回のレスキューに関しての報告会動画を視聴していただくことでレクチャー受けたこととし、ZOOMで面談を行うことで、足を運ぶのはお迎えの時のみという流れにしました。
通常の里親会のルールより手続きを簡略化しつつも、お迎え後に検診に行く義務を設けるなど、鳥にも配慮した募集内容にしました。
募集をした結果、35羽分ものお申し込みがありました。(22年1月時点)
さらには、症状が重篤な子にをお迎えしてくださった獣医師の方もおりました。
これだけの羽数がいる中で治療や看護を行うことは大変でしたので、本当に有難いことでした。
ちなみにこの35羽はすでに引き渡しもすでに完了しました。
これだけ条件が厳しいにも関わらず、お迎えしていただいた里親の皆様には、この場をお借りして御礼申し上げます。
そして、あのような過酷な環境で生き抜いた子達だからこそ、今後は暖かいご家庭で少しでも長い余生を過ごせることを祈っております。
◆今回のレスキューを通して
今回のレスキューは、飼育環境としては過去最悪でした。
最初はどうしてこんな状態になるまで放置していたのかと、憤りを感じました。
しかし蓋を開けてみると、飼い主様も普通の愛鳥家の一人でした。
実際現場に積み上げられた山の中には、文鳥の飼育本なども多く見受けられました。
飼い主様としても、誰にも頼ることができず、どうしたら良いのか分からなかったのでしょう。
もちろん文鳥たちからすれば許されないことですが、飼い主様と接していくうちに、本当にどうしようもなかったのだろうとも感じました。
そして今回のレスキューでは、愛護センターの方の心に寄り添う対応のおかげで、この103羽を救い出せたと言っても過言ではありません。
信頼関係を築きながら向き合う姿勢は、学ぶことも多かったですので、今後のレスキューに役立てていきたいです。
もちろん、このようなレスキューがない世の中にしていかなくてはなりません。
今後も情報発信、啓発活動に努めてまいりますので、皆様とも情報を共有できたら幸いです
そして、今回のレスキューの報告後、大変多くの方からご支援をいただきました。
この場をお借りして心より御礼申し上げます。
寄付者総数:520名
寄付金合計:7,620,354円(21.11/24時点)